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商標法4条1項11号、15号該当性を否定し、審決取消請求を棄却した知的高等裁判所判決について(Julius Tart事件)

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知的財産高等裁判所第4部(菅野雅之裁判長)は、令和5年4月25日、商標登録無効審判を不成立とした審決の取消請求において、被告商標(Julius Tart)について、原告主張の商標法4条1項11号、同15号該当性を否定し、原告の請求を棄却しました。

ポイント

骨子

  • (結合商標における分離観察の可否の判断基準) 商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許される
  • (同基準への当てはめ)本件商標の構成中「Julius」と「Tart」の単語の間には空白部分があるが、それぞれの文字は同書同大で、「Tart」の文字部分は強調されていないのみならず、前記 のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」(引用商標)は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等との関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「Tart」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。むしろ、本件商標は、「Julius Tart」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成されているものであり、「ジュリアス タート」とよどみなく称呼することが可能であるから、「Tart」を要部として抽出することはできず、本件商標は一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和5年4月25日
事件番号 令和4年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件
審決番号 無効2021-890058号
被告商標 Julius Tart(標準文字)
登録第5918891号
原告商標 TART(標準文字)
登録第5427549号
裁判官 裁判長裁判官 菅 野 雅 之
裁判官    中 村   恭
裁判官    岡 山 忠 広

解説

商標の登録要件

商標権を取得するためには、特許庁に対して商標登録出願を行い、商標登録を受けることが必要です。

商標の登録が認められるための要件は、以下の通りです。
①自己の業務にかかる商品または役務について使用をする商標であること(商標法3条1項柱書)
②自他商品・役務識別能力があること(3条2項)
③不登録事由(3条1項各号、4条1項各号)に該当しないこと

このように、出願商標が不登録事由に該当する場合(③)には、商標登録を受けることができません。

先願に係る他人の登録商標に関する不登録事由(商標法4条1項11号)

日本の商標法においては、商標を先に使用(先使用)していたか否かにかかわらず、特許庁に対して先に商標登録の出願をした者に商標登録が認められます(先願主義)。

そして、先願登録商標と同一・類似の商標であって、その指定商品・役務または類似の商品・役務について使用するものについては、商標法4条1項11号の不登録事由に該当するものとして、商標登録を受けることができません。

商標出願がなされた場合、その登録審査時に、先行して出願がなされ、かつ、登録済の同一・類似の商標が存在し、指定商品・役務が同一・類似であれば、商標法4条1項11号に該当するものと判断され、商標登録が拒絶されます。

また、先行して出願されたものの、登録審査時点では未だ登録されていない同一・類似の商標(指定商品・役務が同一・類似)が存在する場合には、当該先願商標が登録されることにより拒絶される旨の通知が特許庁よりなされます(商標法15条の3)。

商標の類否判断

商標の類否判断の基準

商標の類否の判断基準について、特許庁の商標審査基準は、「出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する」
と定めています(商標審査基準第3十1⑴)。

また、最高裁判例(氷山印事件)は、商標の類否判断について、以下のような判断基準を示しました。

  • 商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する。
  • 取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断する。
  • 両商標が同一・類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって、商標の類否を決する。

最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(氷山印事件)

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

類否判断における注意力の基準については、特許庁の商標審査基準は、「指定商品又は指定役務の需要者が通常有する注意力を基準として判断する」
と定めています(商標審査基準第3十1⑶)。

また、商品・役務の主たる需要者層(例えば、専門的知識を有するか否か、年齢・性別等の違い)や取引の実情(例えば、日用品と贅沢品、大衆薬と医療用医薬品等の商品の違い)を考慮するものとされています(同)。

結合商標の類否判断

結合商標の分離観察の可否

複数の文字や図形、記号等を結合して構成される商標を「結合商標」といいます。

結合商標の類比の判断においては、原則として、商標全体同士を比較して観察することになりますが、例外的に、構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを比較して類否の判断をすること(分離観察)が許される場合があります。

特許庁の商標審査基準は、結合商標においては、商標の各構成部分の結合の強弱の程度を考慮し、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には、その一部だけから称呼・観念が生じ得る、すなわち、分離観察が許容される、と定めています(商標審査基準第3十4⑴)。

また、文字のみからなる結合商標においては、各構成部分について、大小があること、色彩が異なること、書体が異なること、平仮名・片仮名等の文字の種類が異なること等の商標の構成上の相違点や、著しく離れて記載されていること、長い称呼を有すること、観念上のつながりがないこと等を考慮して、結合の強弱の程度を判断する、と定めています(同)。

最高裁判例(リラ宝塚事件)(つつみのおひなっこや事件)においては、結合商標の類否判断における分離観察の可否や要件について、以下のような判断基準が示されています。

すなわち、結合商標においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されます。

最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(リラ宝塚事件)
商標はその構成部分全体によつて他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない(中略)。

しかし、簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。

しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決(つつみのおひなっこや事件)
(商標)法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)、

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。

近時の知的財産高等裁判所における裁判例においても、同様の判断が示されました。詳細は当該裁判例に関するこちらの解説をご参照ください。

知財高裁平成31年3月12日判決(キリンコーン事件)
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

出所混同を生じる商標に関する不登録事由(商標法4条1項15号)

商標の本質的機能の一つと言われる出所表示機能が阻害されることがないよう、他人の商品・役務との出所混同を生じるおそれがある商標については、商標法4条1項15号の不登録事由に該当するものとして、商標登録を受けることができません。

「出所混同」とは

特許庁の商標審査基準は、以下のように、商標法4条1項15号における出所混同の意義について、広義の混同を意味する旨定めています(商標審査基準第3十三-1⑴)。

商標審査基準第3十三-1⑴
その他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合をもいう。

すなわち、商標法4条1項15号の「混同」とは、商品・役務の出所が同一であると誤認されること(狭義の混同)に限定されるものではなく、商品・役務の出所は同一ではないが、親子会社、系列会社等の緊密な営業上の関係や、同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にあると誤認されること(広義の混同)まで含まれます。

裁判例においても、最高裁平成12年7月11日判決(レールデュタン事件)は、以下の通り、商標法4条1項15号の「混同」には、狭義の混同のみならず、広義の混同が含まれる、との判断を示しました。

最高裁平成12年7月11日判決(レールデュタン事件)
商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。

出所混同の判断事由

出所混同のおそれの有無の判断手法について、特許庁の商標審査基準では、以下の事由を総合勘案して判断する、と定められています(商標審査基準第3十三-1⑵)。
①出願商標とその他人の標章との類似性の程度
②その他人の標章の周知度
③その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④その他人の標章がハウスマークであるか
⑤企業における多角経営の可能性
⑥商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦商品等の需要者の共通性その他取引の実情

このうち、②の周知度に関しては、必ずしも全国的に認識されていることを要しない、とされています(商標審査基準第3十三-1⑵)。

また、外国において著名な標章について、我が国内の需要者によって広く認識されているときは、その事実を十分考慮して判断する、とされています(商標審査基準第3十三-1⑶)。

出所混同の判断基準時

不登録事由の該当性については、原則として、特許庁における審査時点を基準として判断されます。
もっとも、商標法4条1項15号については、査定時点において同号に該当していても、登録出願時点において同号に該当していなければ、同号は適用されません(商標法4条3項)。

事案の概要

経緯

原告は、令和3年11月4日、以下の被告商標について、以下の原告商標を引用商標として、商標法4条1項11号・同15号該当性を理由に、商標登録無効審判を請求しましたが、特許庁は、令和4年7月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」といいます)をし、その謄本は、同年8月4日、原告に送達されました。

<被告商標>
商  標  Julius Tart(標準文字)
登録出願日 平成28年7月6日
登録査定日 平成29年1月5日
設定登録日 平成29年2月3日
指定商品  第9類「眼鏡用つる、眼鏡用レンズ、眼鏡の部品及び附属品、サングラス、眼鏡」
<原告商標>
商  標  TART(標準文字)
登録出願日 平成23年1月18日
設定登録日 平成23年7月22日
指定商品  第9類「眼鏡、眼鏡の部品及び附属品」

本件審決の要旨

⑴ 商標法4条1項11号該当性について

被告商標と原告商標の外観・称呼・観念について、以下の通り、検討しました。

  • 外観:構成文字、構成文字数が明らかに異なり、相紛れるおそれがない
  • 称呼:構成音、構成音数が明らかに異なり、相紛れるおそれのない
  • 観念:両商標は共に特定の観念を生じないものであるから、比較することができない

そのうえで、両者の外観・称呼・観念等によって取引者及び需要者に与える印象・記憶・連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れることのない非類似の商標であって、別異の商標であるというべきものである、として、商標法4条1項11号該当性を否定しました。

⑵ 商標法4条1項15号該当性について

原告商標が我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められないこと、両商標の類似性の程度が低いことから、被告が指定商品に被告商標を使用したとしても、取引者及び需要者をして原告商標を連想又は想起させることはなく、の商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものとはいえない、として、商標法4条1項15号該当性を否定しました。

判旨

それでは、本判決の判旨を見ていきましょう。

本訴訟における争点、原告主張は以下の通りです。
<争点>
⑴ 商標法4条1項11号該当性
⑵ 商標法4条1項15号該当性

<原告主張>
⑴ 被告商標は、以下の理由から、商標法4条1項11号に該当する。

  • 原告商標(引用商標)は、日本を含め世界的に周知である
  • 被告商標は結合商標であるが「Tart」部分を要部として分離観察が許容される
  • 被告商標の要部「Tart」と原告商標は類似する
  • 被告商標と原告商標の指定商品は同一または類似する

⑵ 被告商標は、以下の理由から、商標法4条1項15号に該当する。

  • 原告商標は、日本を含め世界的に周知である
  • 被告商標の指定商品への使用は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがある

上記争点、原告主張に対して、裁判所の判断は以下のように判断しました。

⑴ 商標法4条1項11号該当性について

引用商標の周知性について

先ず、裁判所は、引用商標である原告商標の周知性について検討したうえで、原告商標の周知性を否定しました。

商標法4条1項11号は、先願登録商標と同一・類似の商標であって、その指定商品・役務または類似の商品・役務について使用するものについて、商標登録が認められない旨を定めるものであり、本来、先願登録商標が周知であることは同号該当のための要件ではありません。

裁判所が原告商標の周知性についての判断を示したのは、原告から周知性に関する主張が展開されたことも理由の一つと考えられますが、結合商標の構成部分の一部に類似する引用商標ついて周知性が認められる場合には、商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えることから、当該部分を要部とした分離観察が許容され得るという考えに基づくもの、と思われます。

結合商標における分離観察の可否ついて

次いで、裁判所は、被告商標が結合商標であることを前提に、結合商標における分離観察の可否についての判断基準を示しました。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年 第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)

裁判所が示した分離観察が許容されるケースは、以下の通りです。
①商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品・役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合
②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合

被告商標における分離観察の可否

裁判所は、以下の通り、被告商標においては、「Tart」の文字部分を要部として抽出することはできず、一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である、との判断を示しました。

本件商標の構成中「Julius」と「Tart」の単語の間には空白部分があるが、それぞれの文字は同書同大で、「Tart」の文字部分は強調されていないのみならず、前記 のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」(引用商標)は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等との関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「Tart」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。むしろ、本件商標は、「Julius Tart」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成されているものであり、「ジュリアス タート」とよどみなく称呼することが可能であるから、「Tart」を要部として抽出することはできず、本件商標は一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である。

裁判所が、被告商標について、「Tart」部分を要部として抽出することはできず、一体不可分の構成とみるのが相当である、と判断した理由としては、以下の点が挙げられています。

①「Tart」の文字部分が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないこと

  • 「Julius」と「Tart」の文字が同書同大である
  • 「Tart」の文字部分が強調されていない

②「Julius Tart」の文字表記は「ジュリアス タート」とよどみなく称呼することが可能であること

  • 「Julius Tart」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成されている
原告商標と引用商標の類否

裁判所は、以下のとおり、被告商標(判決文中「本件商標」)と原告商標(同「引用商標」)について、外観・称呼・観念を比較し、類否を検討しました。

本件商標と引用商標は、外観において構成する文字数が明らかに異なり、称呼においても構成音、構成音数が明らかに異なるものであるから、外観及び称呼において相紛れるおそれはなく、また、両商標は、特定の観念を生じさせるものではないから、観念において比較することができない。

そうすると、本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商標であり、類似性は低いといえる。

被告商標・原告商標の外観・称呼・観念に関する裁判所の判断は以下の通りです。

  • 外観:構成する文字数が明らかに異なる。
  • 称呼:構成音、構成音数が明らかに異なる。
  • 観念:いずれも特定の観念を生じさせるものではない。

そのうえで、裁判所は、被告商標・原告商標について、外観及び称呼において明瞭に区別することができ、非類似の商標であることから、指定商品が同一又は類似するものであるとしても、被告商標について、商標法4条1項11号に該当するものとはいえない、と判断しました。

⑵ 商標法4条1項15号該当性について

裁判所は、

  • 被告商標と原告商標は明確に区別することができる商標であること(類似性が低いこと)
  • 原告商標は需要者・取引者に広く認識されていたものとはいえないこと(周知度が低いこと)

を理由として、被告商標の指定商品に原告商品が含まれること、原告商標・被告商標の需要者・取引者が共通すること、を認めつつも、以下のように、出所混同を生じるおそれを否定し、被告商標について、商標法4条1項15号に該当するものではない、と判断しました。

本件商標が指定商品に使用された場合、需要者及び取引者において、本件商標から引用商標を連想し、原告の業務に係る商品、又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると認識するものとは認め難いから、その商品の出所の混同を生じるおそれがあるものと認めることはできない。

したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものではないというべきである。

結論

以上の判断を踏まえて、裁判所は、被告商標について、商標法4条1項11号及び同15号に該当しないものとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がない、と判断しました。

コメント

本判決は、商標法4条1項11号該当性、同号15号該当性が争われたものであり、商標の不登録事由に関する争点整理や裁判所の判断手法について、実務上参考になるものとして紹介します。

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(文責・平野)


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