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ポータルサイトのサービス利用規約の一部条項を含む契約の申込み・承諾の意思表示の差止め等判断を維持した東京高等裁判所判決

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東京高等裁判所第2民事部(白石史子裁判長)は、令和2年11月5日、ポータルサイト「モバゲー」のサービス利用規約の一部条項が消費者契約法所定の事由に該当すると認め、契約の申込み・承諾の意思表示の差止め等を命じた原審判断を維持しました。

ポイント

骨子

  • 消費者契約に求められる明確性について
    (事業者は)「合理的な判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観的には合理性がなく会員に対する不法行為又は債務不履行を構成するような会員資格取消措置等を「合理的な判断」であるとして行う可能性が十分にあり得るが、会員である消費者において、訴訟等において事後的に客観的な判断がされた場合は格別、当該措置が「合理的な判断」に基づかないものであるか否かを明確に判断することは著しく困難である。
  • 契約文言の限定解釈の可否について
    事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(法3条1項1号)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。

判決概要(審決概要など)

裁判所 東京高等裁判所第2民事部
判決言渡日 令和2年11月5日
事件番号 令和2年(ネ)第1093号・第2358号
裁判官 裁判長裁判官 白 石 史 子
裁判官    浅 井   憲
裁判官    湯 川 克 彦

解説

消費者契約とは

消費者契約法において、「消費者契約」とは、消費者(個人。但し、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く。)と事業者(法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる個人)との間で締結される契約をいうものと定義付けられています(消費者契約法2条1項、2項、3項)。

適格消費者団体とは

消費者契約法において、「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のために消費者契約法上の差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人であるとして、内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体をいうものと定義付けられています(消費者契約法2条4項)。

適格消費者団体は、以下の通り、事業者等が消費者契約を締結するに際して、不特定かつ多数の消費者との間で消費者契約法8条から10条までに規定する契約条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防等必要な措置をとることを請求することができる、と規定されています(同法12条3項)。

消費者契約法第12条(差止請求権) *抜粋
3 適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第五号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項各号に掲げる場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない。

本件では、適格消費者団体である原告が、被告運営のポータルサイトのサービス利用規約の条項について、消費者契約法8条1項所定の事由に該当するものとして、同法12条3項に基づき、契約の申込み・承諾の意思表示の差止めを求めた事案です。

事業者の努力

消費者契約において、事業者は、以下の通り、消費者契約の条項を定めるに当たって、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮する努力しなければならない、と規定されています(消費者契約法3条1項1号)。

消費者契約法第3条(事業者及び消費者の努力) *抜粋
1 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

本件では、被告運営のポータルサイトのサービス利用規約の内容の明確性が争点となりました。

事業者の損害賠償責任を免除する条項等の無効

消費者契約においては、以下の通り、事業者が民法、商法等の任意規定に基づいて負担する損害賠償責任の全部又は一部を免除し、または、その決定権限を事業者に付与する条項は無効とされます(消費者契約法8条1項各号)。

消費者契約法条第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効) *抜粋
1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

消費者契約法8条1項所定事由に該当する消費者契約の条項は、同条項により無効となるだけでなく、前述の通り、同法12条3項により、適格消費者団体の請求により、契約の申込み・承諾の意思表示の差止め等が認められることになります。

なお、消費者の損害賠償請求権を制限する消費者契約の条項については、消費者契約法10条により無効となる場合があります。

第1号 事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部免除条項の無効

消費者契約法8条1項1号は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の「全部を免除する」条項を対象とするものです。

本号により事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項が無効となった場合には、債務不履行による損害賠償責任について、何ら特約が存しなかったこととなり、事業者は民法等の原則通りに損害賠償責任を負うことになります。

なお、民法等の原則に照らしても、事業者が損害賠償責任を負わないようなケースでは、事業者の損害賠償責任は生じません。
例えば、事業者の債務の範囲が技術的に履行可能な範囲に限定される趣旨が契
約の解釈において疑義が生じないように文言上明らかであれば、事業者は技術的に履行不可能な行為を為す義務までは負わないため、損害賠償責任も生じません(消費者庁逐条解説)。

第3号 事業者の不法行為による損害賠償責任の全部免除条項の無効

消費者契約法8条1項3号は、事業者の不法行為による損害賠償責任の「全部を免除する」条項を対象とするものです。

本号の不法行為による損害賠償責任には、事業者自身の故意過失による損害賠償責任(民法709条)のみならず、使用者責任(同715条)、土地工作物責任(同717条)、動物占有者責任(同718条)や製造物責任(製造物責任法3条)等が含まれます。

本号により事業者の不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項が無効となった場合には、不法行為による損害賠償責任について、何ら特約が存しなかったこととなり、事業者は民法等の原則通りに損害賠償責任を負うこととなります。

なお、民法等の原則に照らしても、事業者が損害賠償責任を負わないようなケースでは、事業者の損害賠償責任は生じません。
例えば、民法709条責任においては、事業者に故意過失がなければ原則として損害賠償責任を負うものではありません。また、同715条責任に関して、事業者において、同条1項但書規定事由(被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が生ずべきであったこと)を立証できれば、損害賠償責任を免れることが可能となります(消費者庁逐条解説)。

無効となる可能性がある条項例

消費者庁の消費者契約法逐条解説においては、以下の通り、消費者契約法8条1号・3号により無効となる可能性がある条項例が挙げられています。

「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない。」
「事業者に責めに帰すべき事由があっても一切損害賠償責任を負わない。」
「事業者に故意又は過失があっても一切損害賠償責任を負わない。」
→ 事業者が一切損害賠償責任を負担しないこととなるため「全部を免責する条項」に当たることから、本条項1号・3号に該当し無効となります。

「事業者は、人的損害については責任を負うが、物的な損害については一切損害賠償責任を負わない。」
→ 物的損害については一切損害賠償責任を負担しないこととなるため「全部を免責する条項」に当たることから、本条項1号・3号に該当し無効となります。

「会社は一切損害賠償の責めを負いません。ただし、会社の調査により会社に過失があると認めた場合には、会社は一定の補償をするものとします。」
→ 事業者に対し、損害賠償責任の発生要件である過失の有無にかかる決定権限を付与する条項であり、「当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」に当たることから、本条項1号・3号に該当し無効となります。

事案の概要

本件は、消費者契約法所定の適格消費者団体(消費者契約法13条)である被控訴人が、控訴人が不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「モバゲー」に関するサービス提供契約を締結するに当たり、同法8条1項所定事由に該当する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあると主張して、控訴人に対し、同法12条3項に基づき、当該契約条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止等を求めた事案の控訴審です。

原審判決は、被控訴人の請求を一部認め(控訴人サービス規約7条3項の消費者契約法8条1項1号及び3号該当性肯定)、控訴人に対し契約の申込み・承諾の意思表示の差止め等を命じたことから、控訴人が控訴しました。また、被控訴人も、原審判決で棄却された部分(控訴人サービス規約12条4項の消費者契約法8条1項1号及び3号該当性否定)について、控訴(附帯控訴)しました。

原審判決では、控訴人サービス規約上の「当社が判断した場合」との文言を受けて、「(控訴人における7条1項c、e該当性の)『判断』が『合理的な根拠に基づく合理的な判断』といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない」との指摘がなされました。

控訴人は、原審判決と同日、令和2年2月5日に、サービス利用規約7条1項c、eのうち、「当社が判断した場合」との文言を「当社が合理的に判断した場合」と改正しました。

<モバゲー会員規約>  *抜粋
7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。

a 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
d 本規約及び個別規約に違反した場合
e その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合
2項 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。<

12条(当社の責任)

4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。

5項 当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

本件では、控訴人のサービス利用規約の改正を踏まえて、(改正後の7条1項c、eを受けた)同7条3項及び同12条4項が消費者契約法8条1項1号及び3号に該当するか否かが争点となりました。

判旨

控訴人サービス利用規約の検討

裁判所は、原審判決を踏襲し、控訴人サービス利用規約について、以下の通り、「合理的な判断」の意味内容は、著しく明確性を欠き、消費者において、当該措置が「合理的な判断」に基づかないものであるか否かを明確に判断することは著しく困難であると認定しました。

c号の「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた」という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、その該当性を肯定する根拠となり得る事情や、それに当たるとされる例が本件規約中に置かれていないことと相俟って、それに続く「と当社が合理的に判断した場合」という要件の「合理的な判断」の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。

すなわち、控訴人は、上記の「合理的な判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観的には合理性がなく会員に対する不法行為又は債務不履行を構成するような会員資格取消措置等を「合理的な判断」であるとして行う可能性が十分にあり得るが、会員である消費者において、訴訟等において事後的に客観的な判断がされた場合は格別、当該措置が「合理的な判断」に基づかないものであるか否かを明確に判断することは著しく困難である。

また、e号の「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合」との要件であるが、同号の前に規定されているa、b及びd号はその内容が比較的明確であり、裁量判断を伴う条項ではないのに対し、e号については、「その他」との文言によりc号を含む各号と並列的な関係にある要件として規定されつつも、c号と同じ「合理的に判断した場合」との文言が用いられていることから、c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている。

また、他の企業の規約の中にも同様の表現「当社が判断した場合」などの文言を含む条項がある、という控訴人主張に対し、以下の通り、かかる事情は控訴人の規約が著しく不明確であるとの判断を左右するものではない、と判じました。

この点に関し、控訴人は、他の企業の規約の中には「当社が判断した場合」などの文言を含む条項がある(乙4の1から4の25)旨主張するが、控訴人が指摘する規約の中には、上記条項に関する責任免除規定がないもの、上記条項によって消費者が損害を被る蓋然性が低いものがあるほか、現時点で差止請求がされていないことをもって法に違反していないとはいえないから、「当社が判断した場合」などの文言を含む他の企業の条項があるからといって、控訴人の本件規約7条1項c号及びe号の内容が著しく不明確であるとの上記判断を左右しない。

サービス利用規約7条3項の消費者契約法8条1項1号・3号該当性

裁判所は、控訴人サービス規約7条3項について、同条1項c号又はe号の適用により、被告に損害賠償責任が発生しないことを確認的に規定したものであって、免責条項ではない、という控訴人の主張を、以下の通り、退けました。

本件規約7条3項には、単に「当社の措置により」との文言が用いられ、それ以上の限定が付されていないところ、前記説示したとおり、会員において、同条1項c号及びe号該当性につき明確に判断することは、極めて困難である。さらに、同条3項が「一切損害を賠償しません。」と例外を認めていないことも併せ考慮すると、同項については、契約当事者(控訴人及び会員)の行為規範として、控訴人が不法行為等に基づく損害賠償責任を負わない場合について確認的に規定したものと解することは困難である。

そのうえで、裁判所は、以下の通り、控訴人サービス利用規約7条3項について、原審判決同様に、消費者契約法8条1項1号及び3号所定事由に該当するものと判断しました。

そうすると、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。

本件規約7条3項は、同上1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められ、また、会員資格取消措置等の判断根拠について会員に通知又は説明をしていないところ、控訴人は、当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ、それにより、同上3項が、免責条項として機能することになると認められる。

したがって、法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり、また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべきである。

そして、原審判決同様に、控訴人について、不特定かつ多数の消費者との間でサービス利用規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると差止事由を認定しました。

法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するところ、前記前提事実⑶及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、不特定かつ多数の消費者との間で本件規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると認められる。

なお、裁判所は、本件規約7条3項は控訴人が損害賠償責任を負わない場合にこれを負わないことを確認的に規定したものであって、免責条項ではない、という控訴審での新たな主張に対して、以下の通り、否定しました。

本件規約7条1項c号及びe号にいう「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明確であり、控訴人が「合理的な」判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても、客観的には当該措置等が控訴人の債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところであり、控訴人は、そのような場合であっても、本件規約7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得る。

また、控訴人は、控訴人が客観的に損害賠償責任を負う場合は、そもそも本件規約7条1項c号又はe号の要件を満たさず、したがって、本件規約7条3項により免責されることもないと主張する。しかし、事業者と消費者との間に、その情報量、交渉力等において格段の差がある中、事業者がした客観的には誤っている判断が、とりわけ契約の履行等の場面においてきちんと是正されるのが通常であるとは考え難い。控訴人の主張は、最終的に訴訟において争われる場面には妥当するとしても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当である。

また、〔1〕一般に合理的限定解釈は許されること、〔2〕本件規約7条1項c号及びe号には多数の例示が示されていること、〔3〕他の企業においても「合理的な判断」との条項の意味内容につきトラブルが生じていないことからすると、本件規約7条1項c号及びe号の意味内容は明確である、との控訴審での新たな主張に対して、以下の通り、否定しました。

上記〔1〕については、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(法3条1項1号)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。また、上記〔2〕については、控訴人が主張する例示(乙10)によっても、本件規約7条1項c号及びe号該当性が明確になるものとは解し難い。上記〔3〕についても、控訴人が主張するとおり、他の企業において、「判断」、「合理的な判断」といった条項の意味内容につきトラブルが生じていないとしても、そのことをもって、本件規約7条1項c号及びe号の「合理的な判断」の意味内容が明確であることを意味するものではない。

サービス利用規約12条4項の消費者契約法8条1項1号・3号該当性

裁判所は、控訴人サービス利用規約12条4項については、原審判決同様に、消費者契約法8条1項1号及び3号所定事由に該当するものではないと判断しました。

本件規約12条4項は、被告の責めに帰すべき事由がある場合の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を、1万円を上限として賠償する旨を規定した条項であるところ、同項が「本規約において当社の責任について規定していない場合で」と明示しているからことからすれば、本件規約12条4項は、本件規約7条3項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示が差止められることにより、「本件契約において控訴人の責任について規定していない場合」に該当する除外事由が存在しなくなったから、本件規約12条4項は、責任の全部を免除する規定であると解することはできない。

そうすると、本件規約12条4項は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し」又は「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」することを内容とする条項ではないから、法8条1項1号及び3号の各前段に該当しない。

判決の結論

以上のように、裁判所は、「当社が合理的に判断した場合」と文言を改正した控訴人に対するサービス利用規約についても、原審判決と同様に、消費者契約法8条1項1号及び3号に該当するものとして、同法12条3項に基づき、消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を命じました。

コメント

著名なポータルサイトのサービス利用規約を含む契約差止めが求められた事案の控訴審であり、原審判決と対照することにより、消費者契約法8条1項1号及び3号該当性の判断基準、サービス利用規約の文言解釈(原審判決後、一部文言改正)など、実務上参考になるものとして紹介します。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・平野)


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